【読んだ】『生きて帰ってきた男』

パリ同時多発テロが起こった翌日に届いた本、小熊英二『生きて帰ってきた男』

シベリア抑留、結核療養所を体験し、その後も職も転々としてきた父親を、息子である著者がインタビューして書き上げたドキュメンタリー。テロからの不安を一番に吹き飛ばしてくれたのが、この本だった。

このお父さん、語り口が淡々としていて、自分が生き残れたのは心がけがよかったとか、精神力が強かったなんて一言も言わない。客観的条件がよかったからだ、と冷静に自分の人生を分析できる能力についても「実際に生きて経験した人間はそういうものだ」と言う。そういう姿勢に、一番救われた。

2年前に他界した祖父は、インパール作戦に参加したらしいのだけれど、戦争についてはあまり多くを語らなかった。たぶん、この本のお父さんと同じように、「言ってもわかってもらえないだろう」と思ってたんだと思う。祖父からもらった手紙には一度、戦争中は食べるのに困ったので、戦後はそうならないよう農家になった、という内容が書いてあった。今でもわたしの記憶の中には、鍬をかついで山へ入っていくおじいさんの姿がある。

今年はたくさんいい本に出会った。読書運、サイコーの2015年。村上春樹の『職業としての小説家』も、フランス語がでたら買おう。

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